海外で暮らす親族や交際相手を短期間(90日間以内で)日本へ招待するには、短期滞在ビザという査証を現地の大使館や総領事館へ申請しなければなりません。このビザは俗に短期ビザ・観光ビザとも呼ばれています。
原則、短期ビザの延長/更新は認められませんが、上記のようなご相談は非常に多くお受けします。
そのため、今回の記事では短期滞在ビザの延長をテーマに、そもそも延長は可能なのかといった基本的な条件から必要書類、注意点に至るまで、許可を得るために必要な手続きのすべてを解説していきます。
短期滞在ビザの延長とは
短期滞在ビザ(短期ビザ・観光ビザ)とはその名のとおり、短期間訪日する外国人を幅広く受け入れ、国際交流の活性化を図るために設けられました。
そして、短期ビザを取得した外国人にはそれぞれ来日の目的や理由1があり、その目的が達成されると本国へ帰国するのが通常です。
1 目的に応じて知人訪問・親族訪問・短期商用などに振り分けられます。
しかし、諸事情により本来の目的が達成できなかった場合、当該外国人は引き続き日本での在留を入国管理局に対して願い出ることができます。
この申請のことを、短期滞在ビザの延長申請と呼びます。
ビザの延長・更新が難しい理由
しかし、冒頭にも記載したとおり、本来短期ビザは90日間を超える滞在を想定していません。もっといえば、当初の期限内に帰国することを条件に、大使館・総領事館はビザを発給しています。
つまり、15日・30日・90日以内という前提に基づいてビザが付与されているにもかかわらず、いわばその約束を守らずに延長・更新申請を実施するため、入国管理局内部でも非常に厳しい審査がなされます。
これがよく「短期滞在の延長は特別な事情がなければ難しい」といわれる理由のひとつです。また短期ビザの性質上、年間180日以上の滞在を原則認めないよう留意するという入国管理局の方針も、不許可を言い渡される理由の一例として挙げられます。
特別な事情とは
原則、短期滞在ビザの延長・更新が認められるには、“人道上の真にやむを得ない事情またはこれに相当する特別な事情”が必要とされています。
「人道上」という言葉からも分かるように、特別な事情とは、既存のルールや過去の事例に関係なく、人として守らなければならない倫理にかなっていることを意味します。
たとえば、申請人(来日している外国人)が不運にも交通事故に巻き込まれたとします。その状況で、明らかに怪我を負っている申請人に対して「期限なので今すぐ出国してください」と案内するのは倫理にかなっているでしょうか?答えはノーですね。
つまり、この状況で帰国させるのはあまりにも気の毒だと客観的にみて思える程度の事情が「特別な事情」に相当すると考えられます。
次の章からは、短期滞在の延長における諸条件について、具体的な事例を交えながら解説します。
短期滞在の延長・更新の条件
育児のため延長したい
まず始めに、ご相談の多い上記のケースを考えてみます。この場合は、延長を希望している人物が申請人(来日している外国人)本人にとどまらず、同居している親族全員が延長(更新)許可を望んでいると推定されます。
また仮に、申請が不許可となり帰国せざるを得ない状況になってしまったとき、一番困るのは育児が必要なお子様自身です。
これらのことからも、一般的に育児や出産前後のお世話に関連する申請は、日本にいる親族だけでは手の回らない状況にあると認められる場合、十分許可が見込める事例とされています。
病気や怪我の治療で延長したい
不慮の事故や病気は不可抗力の側面が大きく、また当初の滞在計画では想定されていない場合も多いため、延長・更新が認められる可能性は相当程度あるといえます。
観光や同棲目的で延長したい
原則、これらの延長理由では特別な事情があるとは認められず、不許可になる可能性が高いと解されます。また受付の段階で、申請自体をやんわりと断られる可能性も想定されます。
仮に台風などの天候不良で観光予定がずれてしまった場合や、仕事が忙しく一緒に過ごす時間がとれなかった等の理由があったとしても、それだけでやむを得ない事情には該当しません。
短期滞在の延長申請の必要書類
延長・更新申請の必要書類は主に下記が挙げられます。各書類に分けて参考記事を紹介しているので、順番に読み進めてください。
(1) 在留期間更新許可申請書
今回の延長申請の概要を記載する書類です。用紙は提出先となる入国管理局に用意されていますが、法務省のWEBサイトからもダウンロードできるため、事前に作成しておきましょう。
(2) パスポート
申請人(延長を希望する外国人)のパスポート提示が求められます。忘れずに持って行きましょう。
(3)「短期滞在」の在留資格に係る活動を引き続き必要とする理由を明らかにする資料
長々しい名称ですが、要は延長の根拠となる資料が求められています。
なお、この資料に関しては具体的な指定がないので、延長の根拠になりそうな書類が手元にあればなるべく提出するべきと解されます。また、嘆願書(上申書)や申請理由書もこの項目に該当すると解釈できます。
(4) 日本に入国してから現在までの活動を説明する資料
申請人(延長を希望する外国人)の、入国時から現在に至るまでの活動内容について記述した書面を準備します。
書式自由、具体的に記載願います。
法務省WEBサイトにもこのような補足があり、当該資料についても3と同じく、具体的な書式は指定されていません。
そのため、記載方法に関してはいくつか存在しますが、申請理由書を作成し、その中に組み込んでしまう方法を当サイトではおすすめしています。
もちろん、案件によっては別表を作成するケースもありますが、基本的には理由書の中で、延長を希望する理由と併せて記述したほうがまとめやすいかと思います。
(5) 滞在中の経費を支弁できることを証する資料及び出国のための手段又は経費を支弁できることを証する資料
この項目は、今後も問題なく滞在できる程度の資力があるかどうかが問われています。
仮に短期ビザの延長を許可したとしても、上記のようなトラブルが生じれば、最悪オーバーステイとして処分されかねません。こういったリスクを排除するためにも、資力を証明する資料は必須とされています。
なお、日本側からの招待を受けて来日している申請人(親族訪問・知人訪問など)の場合、原則日本側の協力者が身元保証人を担うかたちになるので、身元保証人名義の資力証明資料を提出するのが一般的です。
預金残高証明書
金融機関の口座残高を証明する書類です。もちろん審査にあたって、預貯金の額は多ければ多いほどよいとされます。
帰国用の航空券
申請時点で帰国用の航空便チケットを手配していれば、オーバーステイになる可能性は低いと判断され、少なからず審査でも有利に扱われる傾向にあります。
ただ、延長申請が許可になる保証はなく、不許可になればチケットそのものが無駄になってしまいます。また審査を実施する入国管理局もチケット代等の補填は行ってくれないので、積極的に準備をおすすめできる資料とはいえません。
納税証明書
本来、納税証明書自体に資力を証明する意味合いはありません。もともとが納税状況を証明する資料なだけに、同証明書のみを延長申請で提出するのは極力避けるべきです。
ただ、身元保証人がきちんと税金を支払っているという証明にはなり得るので、他の書類2と組み合わせることでわずかながら審査に良い影響を与えられます。
2「残高証明書」や「課税証明書」など
在職証明書
在職証明書も直接的に資力を証明する資料ではありませんが、保証人の勤務先や勤務状況を伝えることで、審査を若干有利に運べます。
また在職証明書の書式によっては、勤続年数や担当業務、見込み年収なども記載されるので、可能であれば提出しておきたい書類のひとつです。
また、身元保証人が経営者・会社役員の場合は登記簿謄本(履歴事項全部証明書など)を、個人事業主の場合は在職証明書の代わりに確定申告書のコピーを提出するのも有効です。
所得課税証明書
課税証明書は、簡単にいえば直近1年分の年収や所得を証明できる資料です。原則、お住まいの地域にある市/区役所で取得しますが、引越しなどで転居した方は転居前の役所で発行を受けることが多いです。
身元保証人の資力をダイレクトにアピールできるため、短期ビザの延長・更新申請において是非とも提出しておきたい資料といえます。なお、納税証明書に1年間の総所得が記載されている場合は、納税証明書のみの添付で構いません。
申請書類が完成したら
申請のタイミング
実務上は、上陸時に付与された在留期間の約半分が経過してから申請を行います。
また在留期間は、パスポートのスタンプが押されるページに貼り付けされている証印(下記画像)を確認してください。
また、稀にこのようなご相談をお受けしますが、特段の事情が認められれば受理される可能性はあります。
ただ在留期間が15日または30日の場合、期限経過後も一定期間合法的に滞在できる在留期間の特例3が適用されないため、原則は一度帰国して短期ビザを取得し直すのが望ましいとされます。
3 審査中に期限を迎えオーバーステイになるのを防ぐため、ビザの有効期間を最長2ヵ月間引き延ばせる制度のこと
申請書類の提出先
短期滞在ビザの延長・更新申請では原則、申請人(延長を希望する外国人)の滞在先を管轄する入国管理局または出張所へ書類を提出します。
また実際の申請においては、申請人と日本側協力者4が揃って書類の提出に出向くことが推奨されています。
4 多くの場合は身元保証人が協力者に該当します。
審査にかかる期間
短期滞在の延長に限らず、在留期間更新許可申請は2週間から1ヵ月が標準的な審査期間とされています。しかし、それよりも短い期間で結果を通知されるケースが多くを占めます。
まとめ
- 「特別な事情」についての理解
- 必要書類の組み合わせを検討
- 原則90日の短期ビザを所持している
短期滞在の延長許可を得るためには、上記3点を意識することが大切です。合理的な理由もなく、無理に申請を行っても審査が厳しいことには変わりないので、当初の予定通り出国することも視野に入れながらの準備をおすすめします。
また、特別な事情に相当するかどうかは入国管理局の最終的な判断に左右されるため、とにかく申請してみないと結果が分からない点も延長・更新申請の特徴といえます。